例の三島由紀夫原作の「金閣寺」を、ドイツ語のリブレットに作曲したというやつで、前から興味はあったのだが、実演は初めてである。
ホームページをみると、ベルリン・ドイツ・オペラが委嘱して、1976年に初演、日本での全幕初演は1991年で、以降2回の再演があったらしい。
日本での再演は16年ぶり、横浜の県民 ホールの開館40周年記念公演ということみたい。
確か、NHKで放送したのを録画したビデオが、うちのどっかにあるはずである。
今回も、テレビカメラが入っていたから、放送されるんじゃないだろうか。期待できそう。
県民ホールは、みなとみらいのホールが出来てからは、ずいぶんご無沙汰で、随分前に何かのオペラの来日公演を聴きに行って、客ダネが東文なんかに比べて、ひどく落ちるのにビックリとか、あまりいい思い出はない。まあ、大昔のお話しである。
確かに、音楽自体は、三善の「遠い帆」や、松村の「沈黙」のほうが、クオリティとしては、高いのかもしれない。
それに、何か、ビックリするような目新しい響きがあるわけでもない。
ただ、ヤッパリ原作がきわめてすぐれている。恐らく、現代のオペラ作品のリブレットとしては(海外のものも含めて)最高級品クラスだ。
黛の音楽も、オペラとして、とてもしっくりくる音楽が鳴っていて、舞台作品としては、これ以上望むのは贅沢って言うもんじゃないだろうか。
そしてリブレット、思念の劇がまだ、激しい生命力をもっていた時代、三島由紀夫が紡ぎだす、先の大戦と戦後の焼け跡の時代を生きのびてきた、形而上的な情念と、若い肉体にごめく命の衝動と、その乖離がぶつかり合う、いかにも戦後派的な文学世界。(意味不でんなぁ。)
じじいには、気恥ずかしいくらいな、生々しさであるが、作品のもっている力には、圧倒されざる得ない。
オペラの舞台としても、とても説得力のある演出で、金閣寺の世界にどっぷりはまることができた。
歌い手も、過不足なく、おおいに、オペラを楽しめた。
ブラーヴィ・ブラヴィ・ブラヴィでございます。下野竜也さんの指揮も、非常に明晰で、すこぶるよいできだったんじゃないでしょうか。神奈川フィルハーモニー管弦楽団、はじめてきいたけど、健闘してました。
ということで、大満足ということですが、ちと、望外を。
開演前に、演出の田尾下哲と装置の幹子 S.マックアダムス さんの、プレトークがあって、そこでも、話題になっていたのが、全幕ほぼ、でずっぱりの合唱を、どう舞台にするか、ということですが、結論的には、バックステージで、オペラの骨格を支える、という感じになっていました。
(金閣寺が舞台上に常にあるのは、作品世界として、そうでなければ、という、田尾下さんのこだわりだそうです。ただ、創建以来550年の歳月を経た焼失以前の金箔がはげかけた神さびた姿でも、再建された金ぴかの姿でもなく、白木のようだったのには、どんな意味があるのかは、わかりません。
あと装置の幹子 S.マックアダムス さんが、舞台が黒い漆のような床面なのは、金閣寺の内部の床を意識したもので、劇が金閣の内部の閉じられた空間で生起するものだからといった感じのことをおっしゃっていました。)
そして、舞台上のできごとは、なかなか見映えよく、進行していて、すこぶる、よかったんですが、音楽、オペラとしては、あの合唱は、是非、舞台で、直接うたって欲しかったと思います。
そうなっていれば、オペラ「金閣寺」としてのインパクトが、もっともっと、高くなったんじゃないでしょうか。
開演まえ、舞台の袖になにやら貧弱なスピーカーが設置されて、こいつは、なんだべと思ったのですが、ここから、バックステージの合唱が流れるという、あわれなことになっておったのでございます。
田尾下哲さんの演出は、変にひねくったったところがなくて、上々だったんんですが(ハンぺの弟子らしい、なるほど)、もし、こんど、再挑戦する機会があったらば、是非、舞台上に合唱を載せていただきたいと思います。
なにしろ、オペラなので、まずは、声ありき、なんじゃないでしょうか。コロスにしても、黒子にしても、今の舞台進行と整合をとるのは難しそうですが、もっと、声をなんであります。
あと、神奈川県民 ホールの開館40周年記念公演ということで、劇場の舞台機構もそれなりに、ご活躍でしたが、音楽の途中で、舞台装置がギクシャク、懸命に動いたりして、大丈夫?、途中でとまっちまうんじゃないか!、と、心配させておくれでした。
こんなに、いいい作品なら、こんどは是非、NNTTの大ホールで、ご自慢のハイテク装置を駆使して、安心してみていられる舞台を提供して欲しいもんであります。お願いしますよ、新国立劇場さま。
っていう感じでありました。
つまりは、すんげぇ、いかったぁ、また観たい、ということなんであります。終わり。
神奈川県民ホール開館40周年記念 神奈川県民ホールオペラシリーズ2015
オペラ 「金閣寺」 全3幕/新制作/ドイツ語上演・日本語字幕付 2h20m(休み含む)
神奈川県民ホール 大ホール pm14:15開場
2015年12月5日(土) 15:00--17:20
この作品はベルリン・ドイツ・オペラが
当時の日本を代表する作曲家であった黛敏郎に委嘱し、
同歌劇場で1976年に初演されました。日本では91年の全幕初演以降、
97年、99年に上演され、今回は16年ぶりの待望の上演
指揮 下野竜也
演出 田尾下哲
溝口(12/5) 小森輝彦
父 黒田博
母 飯田みち代
若い男 高田正
人道詮和尚 三戸大久
鶴川 与那城敬
女 吉原圭子
柏木 鈴木准
娼婦 谷口睦
美有為子 嘉目真木子
合唱:東京オペラシンガーズ
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団
装置:幹子 S.マックアダムス
衣裳:半田悦子
照明:沢田祐二
音響:小野隆浩
合唱指揮:安部克彦
副指揮:石﨑真弥奈 沖澤のどか 林直之
コレペティートル:石野真穂 中原達彦 矢田信子
ドラマトゥルク・字幕:長屋晃一
演出補:田丸一宏
所作指導:市川笑三郎
原語指導:ミヒャエル・シュタイン
題字:武田双雲
宣伝美術:FORM::PROCESS
台本翻訳:庭山由佳
プロダクション・マネージャー:大平久美
舞台監督:八木清市
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