2016-03-11

レオシュ・ヤナーチェク オペラ「イェヌーファ」 @NNTT

NNTTの、オペラ「イェヌーファ」にいく。

ヤナーチェクのオペラ創作が生み出した、最初の傑作ということで、出し物としては、いけてるわけだが、あらすじからすると、なんだか、辛気臭そうで、苦手かも。

どうせ、ヤナーチェクをやるなら、女狐だといいのにと、思ったりしたわけだが、新国立でやる、初のヤナーチェクということなので、やっぱり行かなくちゃというわけである。

演出はクリストフ・ロイ、ドイツの新鋭とか。わたしゃ、素人なんで、知らん人だけど、現代風の、置き換えの演出らしい。

で、幕が上がると、密室風の、閉塞的な部屋が現れる。で、看守につれられて、コステルニチカが現れ、彼女が部屋の隅に立ち尽くしていると、、ヤナーチェクの音楽が始まる。

彼女の回想、ということのようだ。

で、1幕、イェヌーファとシュテヴァのありがちな恋の物語、ラツァの横恋慕?三角関係?が、繰り広げられる。

物凄く、質の高いリブレット。ヤナーチェク本人がつくったんだという。スゲェ。(原作は、ガブリエラ・プライソヴァーというひとの『彼女の養女』Její pastorkyňaというコステルニチカが主人公ということが明らかな題名の戯曲で、より、詳細な物語の背景が理解できる小説もあるとのこと。ヤナーチェクも、もともとは、イェヌーファではなく、『彼女の養女』という、本来の題名にしたかったんだ、とか。)

で、その『彼女の養女』の物語を運んでいく、ヤナーチェクの音楽。なんだこれは、ありえないくらいの、すこぶるつきの音楽が、劇を進めていく。

第一幕を見た時点で、ほとんど、ノックアウト状態。茫然自失です。

第二幕の嬰児殺害に至る物語、息をつくのも苦しいくらい。全身、金縛り状態です。

第三幕、ヤナーチェクの音楽が、善男善女の、普通の人生(シュテヴァだって、どこにでもいる、気はいいけれど、いい加減な、ごく普通のダメ男にすぎない。)、でも、、そういう、普通の人間の普通の宿命、どうしようもない人生の苦しみのすべてを、嗚呼、それでよいのだよ、と、掬い上げてくれる、音楽が現れる。

ジジイなので、感情の耐性が極度に劣化してしまっている私の涙腺は、こらえきれずに崩壊いたしました。

なんという、オペラ。こんなものをつくるなんて、ヤナーチェクって、怪物です。

出演の方々、主要な役柄の方から、端役の方々にいたるまで、素晴らしかった。指揮者もきっと、なかなかの演奏ぶりだったんでしょう。

演出家のクリストフ・ロイさん、現代化の舞台なんて、普通、感心したことはないんですが、今回は、特別でした。モラヴィアの田舎の物語の表層が剥ぎ取られた、私たちが現在、生きている人生の物語、今の、私たちの物語なんだ、とまざまざと示してくれている舞台。ブラヴォー。

でも、何よりも、何よりも、ブラヴォー、なのは、ヤナーチェクですよね。歌い手がどうの、指揮がどうの、演出がどうの、という、次元をこえています。

嗚呼、こういうのが、ゲイジュツっていうもんなんだ。天才ってのは、こういうことが出来るんだ、と、こうべを垂れたくなった、 1日でした。

おくさん、つらい、オペラだ。世のおかあさん、ていうのは、みんなコステルニチカと同じように考えているわ。ヤナーチェクに咎められてるみたい、と、落ち込んでおります。

いや、いや、ヤナーチェクは、最後で、そういう、善男善女の、普通の人生を、肯定してくれているんだ、咎めちゃいないさ、と、涙で曇った、わたしの、私見を、披瀝させていただいたのでした。(でも、クリストフ・ロイさんの演出では、終幕の背景は、漆黒。Dunkel ist das Leben, ist der Tod! 生は暗く、死も暗い)



今日は、3.11.であります。.2011..3.11.14時46分18.1秒、普通の人生を奪われた、すべての善男善女に合掌。




オペラ「イェヌーファ」/レオシュ・ヤナーチェク
全3幕〈チェコ語上演/字幕付〉

指揮:トマーシュ・ハヌス
Conductor : Tomáš Hanus
演出:クリストフ・ロイ
Production : Christof Loy
美術:ディルク・ベッカー
Scenery Design : Dirk Becker
衣裳:ユディット・ヴァイラオホ
Costume Design : Judith Weihrauch
照明:ベルント・プルクラベク
Lighting Design : Bernd Purkrabek
振付:トーマス・ヴィルヘルム
Choreographer : Thomas Wilhelm
演出補:エヴァ=マリア・アベライン
Revival Director : Eva-Maria Abelein
舞台監督:斉藤美穂
Stage Manager : Saito Miho


ブリヤ家の女主人:ハンナ・シュヴァルツ
Stařenka Buryjovka : Hanna Schwarz
ラツァ・クレメニュ:ヴィル・ハルトマン
Laca Klemeň : Will Hartman
シュテヴァ・ブリヤ:ジャンルカ・ザンピエーリ
Števa Buryja : Gianluca Zampieri
コステルニチカ:ジェニファー・ラーモア
Kostelnička Buryjovka : Jennifer Larmore
イェヌーファ:ミヒャエラ・カウネ
Jenůfa : Michaela Kaune

粉屋の親方:萩原 潤
Stárek : Hagiwara Jun
村長:志村文彦
Rychtář : Shimura Fumihiko
村長夫人:与田朝子
Rychtářka :Yoda Asako
カロルカ:針生美智子
Karolka : Hariu Michiko
羊飼いの女:鵜木絵里
Pastuchyňa :Unoki Eri
バレナ:小泉詠子
Barena :Koizumi Eiko
ヤノ:吉原圭子
Jano :Yoshihara Keiko

合唱指揮:冨平恭平
Chorus Master : Tomihira Kyohei
合 唱:新国立劇場合唱団
Chorus : New National Theatre Chorus
管弦楽:東京交響楽団
Orchestra : Tokyo Symphony Orchestra
芸術監督:飯守泰次郎
Artistic Director : Iimori Taijiro

ベルリン・ドイツ・オペラ協力上演

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