ヒンデミットとアイスラー、ドイツ近現代もの2曲という、ヴァイグレ得意のプログラム。
ヒンデミット:主題と変奏「4つの気質」
ヒンデミットは私の若い頃の現代音楽家の古典、超大物だが、正直面白いと思ったことはない。4つの気質も聞いたことはあるがなんだかどうでもいい感じでした。
でも 今回聞いてみると、まあ、武骨なんだがなかなか洒落ていて、楽しい聞き物だった。ただ、ヒンデミットなので、情緒はほぼない。こんなもんでしょうというところ。
休憩後 アイスラーのドイツ交響曲。アイスラーもドイツ交響曲も全然知らんが、知っていても、東ドイツの御用作曲家ということで、興味は湧かなかったろう。
この、交響曲は、ブレヒトの歌詞で、階級闘争とかマジに歌っていて、正直好みじゃないんだが、真実丸齧りというか、さすがのもんである。やっぱり、ブレヒト、なかなか強力で、馬鹿にできない、説得力にあふれている。
で、階級闘争があっても、戦争があっても、共和国ができても、雨は上から降ってくる、下から降ったりしない、という苦々しい現実を突きつけられる。
レーニンとかスターリンとかプーチンとかヒトラーとか毛沢東とか習近平とか、紅衛兵とかラーゲリとかホロコーストとかが頭をよぎって、棺に納められた不屈の階級闘争の扇動者が何人あらわれても、世界は変わらない、救いはどこにもなかったなぁと暗澹とする。
ブレヒトの言うことは120%正しいけれど、だからって、どうなるもんでもないのだ。救いはどこにもありはしない。マルクスの戯言がナンボのもんじゃい。革命の不可避的な結末は、スターリンや、毛沢東やポルポトみたいな簒奪者が顕れて、人民を何千万も殺戮するのだということを、歴史が証言しているもの。
ああ、そういえば、私の尊敬する転向を拒否した剛直なスターリニストの花田清輝は、革命のためには心なんか食われてしまえって云ってたなぁと、なんの関わりもないことを思ったりした。
アイスラーの曲、今まで聞いたヴァイグレのドイツ近現代物の中で、ダントツの超傑作。まさに、改題するつもりだったらしい「オラトリオ ドイツのみじめさ」つまりは、世界のみじめさを思い知らされる。
でも、これは字幕つきと言う親切な舞台だったからこそわかったので、そうでなければ、ここまでの衝撃は受けなかったろう。ご配慮に、感謝、感謝です。
まあ、こういう辛すぎる救いのない曲は、おいらも、老い先も短いし、死ぬまでもうそんなにききたくはない。
といって、世界では、今もドイツ交響曲が奏でられている現場がウクライナでパレスチナでウイグルでクルドでミャンマーでと数えきれないほどそこいらじゅうにあるというのは、隠しようのない事実なんだものなぁ。南無阿弥陀仏、っていうしか、ほかはない。
読売日本交響楽団 第632回定期演奏会
2023 10.17〈火〉19:00開演 サントリーホール
指揮=セバスティアン・ヴァイグレ
ピアノ=ルーカス・ゲニューシャス
ソプラノ=アンナ・ガブラー
メゾ・ソプラノ=クリスタ・マイヤー
バリトン=ディートリヒ・ヘンシェル
バス=シム・キーワン→ ファルク・シュトルックマン
合唱=新国立劇場合唱団(合唱指揮=冨平恭平)
ヒンデミット:主題と変奏「4つの気質」
アイスラー:ドイツ交響曲 ※日本初演
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