2014-10-26

ドン・ジョヴァンニ @NNTT

お昼に慎でうどんを食したあと、新国立のドン・ジョバンニにいく。

モーツァルトのオペラは、もう、10年以上、いっていない。
若かりし頃は、小林秀雄にいれあげた挙句、増長して、モーツァルティアンをきどる。
LP片面より長い交響曲など時間の無駄とか、痛い言動を繰り返す。
などなど、なかなかにこっぱずかしい惨状を呈していたのでありました。

そんな訳で、その頃、盛んになりつつあった、オペラ劇場の来日公演も、ほぼ、モーツァルトにしかいっておりません。
若手ばりばりだったカルロス・クライバーの初来日、バイエルンの「魔弾の射手」も、なに、それ、ウェーバーとかありえん、てなもんで、華麗にスルーしたという、残念な歴史を背負っております。

そのご、一般大衆の群れにまじって、シューベルトとか、シューマンとか、ブラームスなどに迷い、定番のブルクナー、マーラーに流れ着くという、よくあるパターンにはまります。

オペラも、ミラノ・スカラの初来日時、アッバードのシモン・ボッカネグラに徹底的に粉砕され、やっぱり、オペラはイタリアだよね、とかいうことになりました。

で、とんと、モーツァルトのオペラには、ご無沙汰ということになります。

今回、なんとはなしに、モーツァルトにも行ってみようか、ということでドン・ジョバンニ。お久しぶりのご対面という訳であります。

【指揮】ラルフ・ヴァイケルト
【演出】グリシャ・アサガロフ
【美術・衣裳】ルイジ・ペーレゴ
【照明】マーティン・ゲップハルト

【ドン・ジョヴァンニ】アドリアン・エレート
【騎士長】妻屋秀和、
【レポレッロ】マルコ・ヴィンコ
【ドンナ・アンナ】カルメラ・レミージョ
【ドン・オッターヴィオ】パオロ・ファナーレ
【ドンナ・エルヴィーラ】アガ・ミコライ
【マゼット】町 英和
【ツェルリーナ】鷲尾麻衣

【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団


劇場に行ったら、レポレッロ役で出演予定のロレンツォ・レガッツォは、芸術上の理由により出演できなくなりました。代演はマルコ・ヴィンコ。と張り紙。

体調不良でなく、芸術上の理由だそうで、謎であります。まあ、どちらも知らないので、問題はないんだが。

いつもどうり、パンフレットを買い込み、眺めていると、今度の上演は、ロベルト・デ・シモーネから、グリシャ・アサガロフ演出にかわって、3度目になるという、安定の演目らしい。

グリシャ・アサガロフって、聞いたことないが、「ドイツ語圏での制作では評論家に現代的演出を期待されてしまうが、日本では古典的で作品に忠実な演出がしやすくなる」などという、身も蓋もないことを堂々とおっしゃっていて、期待がたかまる。

場所をスペインからヴェネチアにかえたのは、ドン・ジョバンニ=カザノヴァ(ダ・ポンテの友人)を前提にしたかったとか。まぁ、ありげな解釈だが、説得力はあるよね。

で、ドンナ・アンナとドン・ジョヴァンニは、どこまでいったか、という、例のお話については、当然、最後まで、というお立場だそうです。

いよいよ、序曲が始まる。と同時に、幕が上がって、ドン・ジョヴァンニがゴンドラで、騎士長宅に乗りつける。

ドン・ジョヴァンニ序曲、のっけから、凄い気合い。こいつは、ドラマ・ジョコーゾなんだと、おもい知る。ヴァイケルトの指揮すげぇ、無駄に年喰ってない。

で、ドン・ジョヴァンニが、屋敷から逃げ出してきて、ドンナ・アンナに追いつかれ、なじられながら、ドンナ・アンナを抱きしめようとする。と、ドンナ・アンナの腕がドン・ジョヴァンニの首にうっとりまきつく、そこで、騎士長が、長剣をさげ、登場となる。

ここまで、明々白々の演出は珍しいのでは、スゲェ、おもしろい。グリシャ・アサガロフの演出、最後の幕切れまで、ホント、楽しめました。グッド・ジョブであります。

ドンナ・アンナのカルメラ・レミージョ、よかったー。いい声。普通なら、ドンナ・エルヴィーラに喰われがちなヒロインですが、もう、真正、プリマドンナでありました。

ドンナ・エルヴィーラのアガ・ミコライも、粘着質の哀れを誘う役柄をみごとに歌い、演じ、涙を誘う。

パオロ・ファナーレも、ドン・オッターヴィオのレジェーロぶりを、いかんなく発揮。いい声だぁー。

レポレッロのマルコ・ヴィンコも、代役で大張りきり、ドン・ジョヴァンニに憧れているレポレッロの心の内をみごとに演じておりました。

ツェルリーナの鷲尾麻衣もなかなかよかったんではないでしょうか。こういう薬を持っている女の子に、男(マゼット)が抵抗できないのは、当然と、モーツァルトの音楽のなまなましい力をしめしてくれました。

マゼットの町 英和さん、水準を落とさない働きはしていたんでしょう。まぁ、マゼットは、ヴェニスの下町の庶民より、スペインの農村のイナカッペがどうしても似合うので、演出の関係で、不利かもです。

騎士長の妻屋秀和さん、いろいろな演目で、安定の実力発揮、いつみても、安心ですが、ドン・ジョヴァンニの場合、幕切れの地獄落ちの声(立派でしたが)には、もっと、もっと、血も凍るような凄味がほしいと、望外の感が少ししました。

で、タイトル・ロールのドン・ジョヴァンニ、アドリアン・エレートですが、悪いというんではないですが、ドン・ジョバンニ=カザノヴァということなので、不屈の自由人、としての、精神力みたいなものをあらわすには、少し、声に魔力が足りないと思いました。これも、望外かもしれません。

ドン・ジョバンニ地獄落ち、そのあとのフィナーレは、普通、つけたりの幕切れっぽい、感じが漂います。

が、今回は、ドン・ジョバンニがいなくなった後の世界、
ドンナ・エルヴィーラはドン・ジョバンニの形見の服をだきしめ、
ドンナ・アンナも襲われた時ドン・ジョバンニがつけていたマスクを胸にかかえる(と、私には思えたが、そうだよね)。
で、レポレッロは自分の神さま=ドン・ジョバンニのカタログを、地面にそっと置いて、ああ、お別れだ、と歌うのである。
いっぽう、ツェルリーナとマゼットだけは、明るい明日を、天真爛漫に喜んでいる。

すんばらしい演出でありました。グリシャ・アサガロフさん。ありがとう。

それにしても、久しぶりの、モーツァルト。オペラとして、あまりのクオリティの高さに、度肝を抜かれました。1幕も2幕も、音の最初の出だしから、幕切れまで、奔流のように駆けていく。そして、なまなましい感情が、どんな旋律にもこもっていて、無駄なところがない。切れば、血が飛び散りそう。でも、音楽は、やたら、美しい。モーツァルトって、こんなに、すざましい音楽だったっけ。

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