2018-10-13

魔笛 @NNTT

NNTTの魔笛を見物に行く。
今、大活躍のウィリアム・ケントリッジさんという方の新演出だとか。素描とアニメーションを駆使した、ハイテクの舞台なんだそう。

でもハイテクといっても魔笛の夢幻的なメルヘンチックな世界じゃぁなくて、1890年ごろの市民社会の衣装をまっとているので、現実世界のお話という感じになっていた。

というわけで、魔笛の支離滅裂なストーリートと世界観が、むき出しに出現して、夜の女王の母性原理とザラストロの父性原理、合理的(科学的)の昼の論理の2項対立が激突して、命の根源を担っている夜の世界が追いやられる、みたいな構造になっているようだ。

みていて、よくわからなかったのが、ザラストロが「この聖なる殿堂には」を歌う厳粛な場面で、背後に流されるモノクロ動画。今や絶滅危惧種のサイを無邪気に狩猟して喜んでいる植民地・帝国主義時代のハンターの姿が映し出される。これって、ザラストロの世界の正体てことなんだろうか?

あと、第二幕冒頭で、ザラストロが司祭たちにタミーノの試練の承認を求める場面、賛否を問うというより、ほとんど、強制的に賛成させるようなやり方が強調されていて、ザラストロの専制性があらわに示されていたよね。

ということで、どちらも、無茶苦茶な言い分の夜と昼の世界の中で、モーツァルトの音楽だけが、人間の真実の歌声をうったている。パミーナもパパゲーノもパパゲーナもモノスタトスも夜の女王も。タミーノとザラストロはちとあやしいが。

ということで、なんだか居心地の悪い世界の中で、モーツァルトの音楽の力に救われるみたいな気分でした。

正直、ハイテクの舞台って、音楽にとっては少し邪魔。アンチメルヘン化した世界も、もともとは混沌とした童話の世界の中に溶け込んで、カモフラージュされていた、夜と昼ののっぴきならない矛盾があらわになって、なんだか、居心地がわるい。

でも、文句をならべたてたけれど、大野和士音楽監督の新体制皮切りのプロダクションで、それなりに気合は入っているし、ミヒャエル・ハンペの中庸な演出を6回もやってきたんだから、これはこれで、良いのじゃないの。すくなくとも、ブーを受けてとっても嬉しそうだったカタリーナ・ワーグナー演出の斬新な「フィデリオ」よりは、今後のレパートリーとしても、十分でしょう。(カタリーナさんの「フィデリオ」は、キース・ウォーナーの"トーキョーリング"同様、あと一回ぐらいお義理でやったら、お蔵入りがよいのでは。わたしゃ、小市民です)

あと、指揮はそれなりだったような気がしました。舞台が忙しくて、その上、ピアノ(フォルテピアノじゃなく)の通奏低音がなったり、おそらく、「魔笛」はジングシュピールだよっていうわけか効果音として打楽器奏者が大活躍、嬉しいんじゃね、みたいな感じだったので、詳細は不明。

で、歌手陣はそれなりの日本人歌手の方々が中心(新国立の魔笛はそういう方針なのかもね)で、まあそれなり。

夜の女王の安井陽子さんい文句いうのはかわいそうだよね。ちゃんと、声出してたもん。

あと、今日は楽日の前日ということで、ちょっと、お疲れかなぁとは思ったけれど、ザラストロのサヴァ・ヴェミッチさん、立派な声です。一番ブラボーもらってました。

このウィリアム・ケントリッジさんの魔笛、3,4年したら再演があるんだろうから、また見ることになるはず。もう少し良くわかるようになといいなぁ。



2018/2019シーズン
オペラ「魔笛」/ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
Die Zauberflöte / Wolfgang Amadeus MOZART
全2幕〈ドイツ語上演/字幕付〉
オペラパレス

2018年10月13日(土)14:00 オペラパレス
予定上演時間:約3時間(休憩含む)

スタッフ
指揮 ローラント・ベーア
演出 ウィリアム・ケントリッジ
演出補 リュック・ド・ヴィット
美術 ウィリアム・ケントリッジ、ザビーネ・トイニッセン
衣裳 グレタ・ゴアリス
照明 ジェニファー・ティプトン
プロジェクション キャサリン・メイバーグ
映像オペレーター キム・ガニング
照明監修 スコット・ボルマン

キャスト
ザラストロ サヴァ・ヴェミッチ
タミーノ スティーヴ・ダヴィスリム
弁者・武士Ⅱ成田 眞
僧侶・武士Ⅰ秋谷直之
夜の女王 安井陽子
パミーナ 林 正子
侍女Ⅰ増田のり子
侍女Ⅱ小泉詠子
侍女Ⅲ山下牧子
パパゲーナ九嶋香奈枝
パパゲーノ アンドレ・シュエン
モノスタトス升島唯博
合唱 新国立劇場合唱団
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団

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